本場イタリアの生パスタを味わえるパスタ店が東京郊外にあります。東京の下町・巣鴨から、都営三田線に揺られ20分の高島平駅。巨大な集合団地を背に、戸建てが並ぶ住宅地を進むと「パスタ工房あ・まーの」の看板を発見。猪野和之さんと由紀恵さんのご夫婦が店内で生パスタを手作りし、今日も仲良く営業中。陽気な笑い声と一緒に、お話を伺いました。

イタリアのマンマの味を追求

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会社に務めていたころから食べ歩きが好きで、偶然あるお店で楽しんだ1988年のボルドー赤ワイン。当たり年の美味しさに魅せられワインエキスパートの資格を取得するとともに、ワインに合う料理を幅広く追及、さらに料理教室も主宰してきました。「韓国料理やフレンチ、エスニック料理など様々な料理を教えましたが、生徒さんが食材を入手しやすく、作り易いのがイタリアンでした」と料理担当の由紀恵さん。の後、さらに美味しい料理を学ぶため一ヶ月ほどイタリアに留学し、毎年イタリア各州への食材ツアーに参加。今では訪れていない州は数えるほど。現地で料理を教えてくれるのは、現地のお母さん。イタリアではパスタ作りは女性の仕事。田舎に行くほど女性シェフが多いことに気付きます。工房がアルド社から直輸入している卵使用の乾麺は調理法が特殊なため一回のヒアリングだけでは作れず、再度現地を訪れシェフに習いました。輸入しているアルド社のスペルト小麦の麺は野菜系のソースが合う、セモリナ粉の麺はトマト系の濃いのが合うなど、味の組み合わせは人の感性でそれぞれですが、シェフに習ったことを活かして、由紀恵さんが考える限りの、一番美味しい組み合わせで味わえます。紀恵さん「私の料理のコンセプトは『素材の味を生かしたシンプルで美味しいマンマの手料理』。おっきな蟹が乗った何千円もするような料理ではないんです」一番手頃なメニューは750円。夫の和之さんがパスタを打ち、それ以外の料理やお菓子はすべて由紀恵さんが作っています。パスタ料理はひと皿でバランスよく栄養を摂りやすい料理です。日本人にはにんにくの味付けが好まれがちですが、野菜の出汁で十分美味しさが出るため、「あ・まーの」ではにんにくはほとんど使いません。また、ハーブの香りと茹で塩をしっかりとすることによりソースを薄味にして、料理全体の塩分を抑えることが出来ます。

こだわりの自家製生パスタ

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今のレストランの業態になるまでにはいくつも苦労がありました。自宅近くで見つけた路面店にパスタ工房を設置し、当初は麺のネット販売を計画していました。ところが始めてみると、生パスタの通販業界は飽和状態。また、パスタソースを商品化するにも、保存料を使わずに、お客さまが簡単に調理できるソースの開発が難しく、梱包も非常に手間がかかります。お客さまから、お店で料理したものを食べたい、と言われたこともあり、それなら食べてもらえるお店にしようと現在のレストランになりました。
国産高級小麦粉と埼玉産地卵のみを使用し、独特の歯切れの良さと小麦粉の味わいを追求しています。実際に製粉所にも見学に行き、通年で安定して手に入り、かつ生パスタ作りに最適な小麦粉を見つけました。当工房の自家製生パスタには、地卵が30%以上含まれているのでソースの素材は主に野菜が中心。また、イタリア伝統料理をアレンジしたお肉のソースもあります。
パスタの製造方法には、ダイスで生地を押し出す方式と生地をローラーなどで薄く延ばす圧延法があります。当工房では、美味しいとされている圧延法でパスタを製造しています。また、季節により卵に含まれる水分、脂肪の変化、製造時の湿度、圧延回数、製造途中の乾燥状況によりパスタの厚さなどに微妙な差が生じて、パスタの茹で時間も微妙に変化します。さらに固めに茹でてソースを吸わせる時に火が入るなど調理方法によって茹で時間が変わります。日本人は「打ちたて」を好みますが、当工房のパスタは一晩寝かせてグルテンを安定させた方がより食感がよくなるようです。イタリア人と日本人では、幼いころからの食生活が違うため、現地のレシピをそのまま日本で出すと、日本人には胃もたれしやすい仕上がりになりがちです。そのため当工房では、現地の味をベースにしながら、日本人の味覚に合う味にアレンジして出しています。また離乳食が始まってなんでも口に出来るようになる赤ちゃんから、80代のお年寄りまで幅広く召し上がることができます。由紀恵さんは「自分たちで調理して一番美味しいタイミングでお出ししたほうがいいと思い作り始めました。その方が、良い物をちゃんと食べてもらえるとわかるので、私たちのストレスも無いんです。季節の食材も使えるし、お客さまのアレルギーや好みに合わせて、その場でソースをアレンジすることも可能です。私たちも自分たちがやりたいことをやれるようになったし、お客さまも食べたいものを召し上がれるようになったので、お互いにハッピーかなと思っています」般的に言われる「もちもちした生パスタ」は、実は南イタリアのもの。中部イタリア以北では地粉と卵を使用するパスタが多く、一般に歯切れの良いものです。当工房で作っている生パスタは卵を使うため、もちもちしていません。和之さん「南の方は気候が暖かく、卵を使うと傷んでしまうのでセモリナ粉と水やお湯で作っています。日本の喫茶店などの生パスタの多くは、ダイスで押し出したパスタを乾燥させずに冷凍し、生パスタとして販売しているようです。だから、日本で生パスタを食べ慣れているからといっても、イタリアで生パスタを注文したらぜんぜん違うものが出てくるんです」目指すのは、イタリアの現地のお母さんが卵を入れて、練り、少し寝かせ、やさしく丁寧に伸ばしたパスタ。正統派にこだわるのが人気の秘密。

女性が寄りやすいお店づくり

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お店の利用者の多くは近所の方。宣伝費よりも材料費を優先し、主な宣伝は店頭の看板と、入り口のタペストリーだけ。
店先の通りは風が強く、のぼり旗を使用できません。また、女性のお客さまがお酒を楽しんでいる様子を外から見られないように、お店の中にかけられるタペストリーを探していました。イタリアのイラストレーターのロベルト・ピビリ氏の絵(商品番号:PAC149)はセンスがよく、イタリアの食を追及する「あ・まーの」のコンセプトにピッタリです、と和之さん。
由紀恵さん「ポスティングチラシは、自分だと読まずに捨ててしまうことが多いので、しっかりしたパンフレットを作って店頭や知り合いの体操教室、美容院に置いてもらっています」
広告宣伝で広げていくよりは、口コミで広げていくほうがいいんだろうな、と和之さん。

街の高齢化に対応

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店内は高齢化に配慮し、ゆったりとしたテーブルや幅広で座りやすいカウンター席を設置。
地元の方が四人ぐらいで集まって、前菜とパスタにワインを一本空けて、ああ美味しかったね、と召し上がるようなご利用がもっと増えると嬉しいです、と由紀恵さん。ご家庭のお祝いでも「あ・まーの」では、予約をすれば夜は様々な料理をご用意。
貸切でパスタの食べ比べの会や、ウンブリア料理の会などイタリア各地の料理の会を、お友達どうしで企画して集まる方もいらっしゃいます。夕飯代わりに食べていく方もいて、今日は何時まで大丈夫? と電話がくることも。
経営的な課題はありますが、ようやく街の世代交代が進んできたので、これからの展開に期待が膨らみます、と和之さん。

(DNSニュースレターvol.5 2015/7/20発行分より抜粋)

株式会社パスタ工房あ・まーの

代表者 猪野和之さま
工房長、日本ソムリエ協会ワインエキスパート、イタリア料理教室Allegria主宰 猪野由紀恵さま

所在地 〒 175-0082 東京都板橋区高島平8-9-1-106
最寄駅 都営三田線高島平駅徒歩5分
TEL 03-6915-7028
WEB パスタ工房あ・まーの

ランチ 11:30 ~ 14:30 (L.O 14:00)
カフェ 15:00 ~ 17:00
ディナー 17:00 ~ 19:00
定休日 月曜、火曜